今回は、2000年前後を中心にブームになったビジネスモデル特許について説明します。
ブーム当時と比較して出願件数は減りましたが、現在でもニーズがあり、各企業から出願がなされ、特許が成立しています。
ビジネスモデル特許とは
ビジネスモデル特許とは、ビジネスの仕組みや方法に関する発明に与えられる特許です。
特許の区分では、コンピュータ・ソフトウエア関連発明に該当します。
英語では、ビジネス方法(business method)の特許と言います。
ビジネスモデルの特許になるためには(その1)
ビジネスモデルが特許になるためには、そのビジネスモデルが「特許法上に発明」(自然法則を利用した技術的思想の創作)でなければなりません。
具体的には、このビジネスモデルにおいて、「ソフトウエア(コンピュータープログラム)による情報処理が、ハードウエア資源(コンピュータ装置)を用いて具体的に実現されている」必要があります。
難しい表現ですが、簡単に言いますと、コンピューターなどを利用してくださいということです。
しかも、コンピューターが行う情報処理と、ビジネスモデルとの関係を具体的に示してくださいということです。
また、一見コンピュータを使用していますが、コンピュータを使用しなくても達成できるようなビジネスモデルの場合も、特許になりません。
ちなみに、コンピュータは、パソコンに限らず、インターネットやサーバー、スマホであってもかまいません。
よって、スマホのアプリを利用したものもビジネスモデルの特許になります。
ビジネスモデルの特許になるためには(その2)
そのほかには、他分野の発明と同様に、新規性や進歩性の特許要件を満たす必要がありますが、
ビジネスモデルを含めたソフトウエア関連では、進歩性については、他と若干異なる基準が設けられています。
進歩性の要件では、当業者(その分野の平均的な知識を持つ者)が容易に思くものはNGなので、特許になりません。
そして、通常、この当業者は、一人(一分野の人)です。
たとえば、医療の発明であったら、医療分野の当業者を基準に考えます。
しかし、このビジネスモデルの特許では、当業者が2人います。
ビジネス分野の当業者と、IT分野の当業者です。
この2人の当業者から容易に思いつかないものでなければ特許になりませんので、
特許になるハードルが他の分野と比べて高くなっていると言えます。
具体的にはどんなものがNGで、どんなものがOKか
特許庁が示す審査基準の例として以下のものが挙げられています。
NG例
「テレホンショッピングで商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、
①贈与するポイントの量と贈答先の名前が、電話を介して通知されるステップ、
②贈答先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈答先の電話番号を取得するステップ、
③前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈答先のポイントに加算するステップ、
④サービスポイントが贈与されたことを贈答先の電話番号を用いて電話にて贈答先に通知するステップ
とからなるサービス方法。」
NG例では、「顧客リスト記憶手段」があるので、コンピュータは利用されていますが、コンピューターが行う情報処理が具体的に示されてません。
単に、コンピューターを記憶手段の道具として用いるという人為的取り決めを示しているだけで、「特許法上の発明」に該当しないと判断されます。
OK例
「インターネット上の店で商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、
①贈与するポイントの量と贈答先の名前がインターネットを介してサーバーに入力されるステップ、
②サーバーが、贈答先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈答先の電子メールアドレスを取得するステップ、
③サーバーが、前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈答先のポイントに加算するステップ、
④サーバーが、サービスポイントが贈与されたことを贈答先の電子メールアドレスを用いて電子メールにて贈答先に通知するステップ
とからなるサービス方法。」
審査基準に、ほかの例が載っていますので、参考にしてください。
実際に登録になった具定例
日本では、
「取引決済装置」(昭58年出願、特許第1685297号)
「有価証券用複合データ処理システム」(昭60年出願、特許第2587615号)
「自動車等の競売システム」(昭63年出願特許第2733553号)
「電子通貨システム」(平4年出願、特許第2141163号)
などがあります。
アメリカでは、
「投資信託の管理システムの特許」米国特許第5193056号
「ネットワーク販売システム」(オープン・マーケット・ショッピングカート特許)米国特許第5715314号
「買い手主導の条件付き購入の申し出を促進するために設計された、暗号により援助された商業ネットワークシステムのための装置および方法」(逆オークション特許)米国特許第5794207号
「通信ネットワークを介した購入注文を申し込むための方法およびシステム」(ワンクリック特許)米国特許第5960411号 権利者アマゾン
ちなみに、「投資信託の管理システムの特許」が、アメリカにおいて、ステートストリートバンク事件(ハブ・アンド・スポーク事件)の裁判(1998年判決)で争った特許であり、この裁判により、ビジネスモデルも正式に特許の対象となることが判事されました。
これを受けて、日本でも、1999年から急激にビジネスモデル特許の出願が増えました。
最近の登録率
図表の特許庁の統計によりますと、2000年くらいには、特許率が8%と極めて低かったですが、2013年になると、50%を超えています。
昔はビジネスモデルは特許になりにくいというイメージでしたが、近年は逆で、むしろ特許になりやすい状況に変わってきています。