出願時同効材とは、出願時に当業者が想到することが容易であった技術的選択肢のことを言います。
例1:特許請求の範囲の構成に、発明を考慮すれば、電気を良く通す導体で上位概念化できるにもかかわらず、「銅」と記載した場合に、「銀」などが該当します。
例2:特許請求の範囲の構成に、発明を考慮すれば、アルコールで上位概念化できるにもかかわらず、「メタノール」と記載した場合に、「エタノール」などが該当します。
例3:特許請求の範囲の構成に、発明を考慮すれば、柱で上位概念化できるにもかかわらず、「角柱」と記載した場合に、「丸柱」などが該当します。
均等論の第5要件
出願時同効材は、均等論の第5要件と関わりが深い用語です。
均等論の第5要件は、意識的除外(対象製品(被疑侵害製品)等が、特許発明の特許出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものなどの特段の事情がないこと)を規定しています。
この特段の事情に該当すると、権利範囲から意識的に除外したものとして、均等論による侵害になりません。
この出願時同効材が、特段の事情に該当するか否かが、大きな争点になっており、
該当する裁判例と、該当しない裁判例とで対立していました。
判断が割れた裁判例
出願時同効材が、特段の事情の対象となるとした裁判例(非侵害)
・東京地裁H25年12月19日(白カビチーズ事件)
・知財高裁H24年9月26日(医療用可視画像の生成方法事件)
・知財高裁H21年8月25日(シンギュレーションシステム装置事件)
・知財高裁H17年11月28日(施工面敷設ブロック事件)
特段の事情の対象にならないとした裁判例(均等侵害)
・知財高裁H18年9月25日(エアマッサージ装置事件)
・知財高裁H18年6月16日(椅子式マッサージ機事件)
知財高裁大合議で決着
知財高裁の大合議判決(H28年3月25日、H27年(ネ)10014号:マキサカルシトール事件)にて、ついに決着しました。
原則、出願時同効材は、特段の事情の対象に当たりません。
原則というからには、例外もあり、判決文には、そのことも例示されています。
判決文を以下に抜粋します。
「この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,
出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,
したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,
そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。」
次が例外についてです。
「もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。」
例外として、2つを例示しています。
特に、1つ目が実務的には、注意です。
「出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載している」場合です。
例えば、文頭の例1で考えると、明細書中に、「銀」を構成とした形態を明記している場合が、それに該当します。
明細書に出願時同効材に書くと、例外に該当し、均等侵害を範囲を狭めることになりかねませんので、注意する必要があると思います。