コンプリートバー(complete bar:絶対的禁止)と、フレキシブルバー(flexible bar:柔軟的禁止)について、説明します。
これらは、特許侵害訴訟で、均等論の第5要件(意識的除外)で論じられるルールです。
コンプリートバーとは、特許出願の経過で補正したクレーム要素については、禁反言が働いて、均等論が完全に主張できないルールです。
フレキシブルバーとは、特許出願の経過で補正したクレーム要素であっても、その補正内容によっては、禁反言が働かずに、均等論を主張できる場合があるルールです。
一般的に、補正内容が、先行技術を回避するための補正(新規性や進歩性違反を解消する補正)では、
フレキシブルバーであってもコンプリートバーであっても、均等論は主張できなくなっています。
問題は、補正内容が、明確性違反などの記載不備(36条違反)の場合です。
この場合、フレキシブルバーを採用するのかコンプリートバーを採用するのかが裁判例で分かれています。
フレキシブルバーを採用する裁判例としては、ソレノイド駆動ポンプ事件(大阪地裁平成25年7月11日)があります。
コンプリートバーを採用する裁判例としては、交流電源装置事件(東京地裁平成11年6月10日)があります。
いまだ、知財高裁の大合議などでも争点となっておらず、今後の裁判でもどちらに転ぶか不明です。
現状では、特許発明を使用したい者(特許権者側ではない方)としては、
安全サイドに立って、より権利範囲が広いフレキシブルバーで、対策しておいた方がよさそうです。
アメリカでは、フレキシブルバーを採用
アメリカでは、最高裁判所が、フレキシブルバーの立場を支持していますので、
フレキシブルバーを採用することが明確になっています。
有名なFesto(フェスト)事件です。
従来から、アメリカでは、フレキシブルバーが一般的な考えでしたが、
Festo事件の下級審(CAFC;合衆国連邦巡回区控訴裁判所)が、コンプリートバーの立場を支持したため、
最高裁判所に持ち込まれ、
最終的に、最高裁判所がフレキシブルバーの立場を支持した事件です。
アメリカでは、フレキシブルバーの適用基準が明確
Festo判決によりますと、原則として、補正が行っている場合は、
禁反言が推定され、均等論を主張できません(一見して、コンクリートバーです)。
しかし、特定の要件を特許権者が主張した場合は、
禁反言の推定を否定して、禁討論を主張することができるようになります。
特定の要件(禁反言の反駁要件)とは、以下の3要件のいずれか一つです。
1、均等物が補正時に予測不可能であること
2、減縮補正の根本的理由が、均等物に対してほとんど関係がないこと
3、均等物を記載できなかった合理的理由があること
Fest判決は、下記の論文に詳しく書かれています。