内在同一(内在的に同一)とは、「Aという発明と、刊行物に記載された発明Bとがある場合に、
その刊行物には、Aの構成(物性、特性、機能など)が具体的に開示されていないが、
発明Bが、そのAの構成を必然的に有しているとき(すなわち、内在しているとき)に、
Aの発明とBの発明とは内在(的に)同一である」と言います。
化学分野において、新規性を否定する判断手法の一つです。
具体的には?
例えば、発明Aの構成要件a、b、cとします。
構成要件cは、特定範囲の電気伝導率とします。
刊行物には、構成要件a、bは記載されていますが、構成要件cは記載されていません。
しかし、刊行物に記載された発明Bを実際に作製して、電気伝導率を測定してみると、
構成要件c(特定範囲の電気伝導率)を必然的に満たしました。
このときに、発明Aと発明Bとは内在同一になります。
内在同一の対象となる構成としては、電気伝導率以外にも、
電気特性、殺菌機能、熱伝導度、粘度、密度、融点、ポリマー構造、不純物量、ミクロな内部構造(例えば、結晶構造)など、
内在同一を論点とした裁判例その1
当業者が乙1 公報記載の実施例を再現実験して当該物質を作成すれば,その特定の構成を確認し得るときには,当該物質のその特定の構成については,当業者は,いつでもこの刊行物記載の実施例と,その再現実験により容易にこれを知り得るのであるから,このような場合は,刊行物の記載と,当該実施例の再現実験により確認される当該属性も含めて,29条1 項3号の「刊行物に記載された発明」と評価し得るものと解される(以下,これを「広義の刊行物記載発明」ともいう。)
(平成25年行(ネ)第10018号、「誘電体機器」)
裁判例その2
引用刊行物に記載された物が,当該物の発明に係る物の特性を必然的に有していることを,追試等をもって立証することができた場合には,引用刊行物に当該特性が記載されていなくても,当該物の発明は,引用刊行物に記載された発明である物の発明に関して,特許法29条1項3号の「頒布された刊行物に記載された発明」であるとの理由に基づいて,特許を受けることができないとするためには,原則として,当該刊行物に,当該物の発明の構成が開示されていることが必要であるが,引用刊行物に記載された物が,当該物の発明に係る物の特性を必然的に有していることを,追試等をもって立証することができた場合には,引用刊行物に当該特性が記載されていなくても,当該物の発明は,引用刊行物に記載された発明であるということが可能な場合がある(内在性に基づく新規性欠如の論理)。ただし,その前提として,引用刊行物から認定する物は,追試が可能となる程度に具体的に記載された物でなければならず,また,その物は,当該物の発明と対象を同じくする物でなくてはならない。」
( 平成25年(行ケ)第10303号、「白色二軸延伸ポリエステルフィルム」)
この判例では、内在同一で新規制を否定する基準を明記しています。
すなわち、刊行物は、追試できる程度に詳しく書かれている必要があるとのことです。
これは、内在同一の適用に制限をかけたもので、
内在同一の拒絶理由がされた場合の反論として、使えそうです。
特許・実用新案審査基準
実際の審査では、以下の場合に、新規性を否定する拒絶理由を通知するようです。
「引用発明と請求項に係る発明との間で、機能・特性等により表現された発明特定事項以外の発明特定事項が共通しており、
しかも当該機能・特性等により表現された発明特定事項の有する課題若しくは有利な効果と同一又は類似の課題若しくは効果を引用発明が有しており、引用発明の機能・特性等が請求項に係る発明の機能・特性等に含まれる蓋然性が高い場合」
アメリカ
アメリカでは、MPEPのセクション2112( 内在性〔inherency〕に基づく拒絶の要件)で、下記のように明記しています。
「先行技術文献における明示的、黙示的〔implicit〕、または内在的な〔inherent〕開示は、特許法102条または103条によるクレームの拒絶の根拠とすることができる。」
要するに、日本と同様に、内在同一で、新規性(アメリカ特許法102条)で拒絶されます。
まとめ
化学の研究者では、今まで出願公開したものと全く同じ物(過去の出願の実施例と同一または酷似)に対して、
新しい特性やパラメータなどを見出して、その特性を発明の構成要件として出願することが良くあります。
しかし、過去の出願の実施例と物自体が異なるものでなければ、新規性無しとして、拒絶される可能性が高い点、注意してください。